東京生まれでドイツ在住の多和田葉子氏は二ヶ国語すなわちドイツ語と日本語で書く、数少ない執筆者の一人です。
それ故彼女はインタビューの時にどちらの言語を使っていますかと、いつも質問されることになります。「たしかに、言語を自由に操りたいという人間の権勢欲を感じます…しかしその際、
言語が人間を描いているのであって、その逆ではないということに人間は気づいていません。」この特別な見方は彼女のテキストに一貫して流れています。“母語から語母へ”というエッセーでも、鉛筆といった普通の
ものをまったく別の視点からみつめることになります。
彼女がこけしについて、あるいはローテンブルク オプ デア タウバーについて書こうが、ヴェルターブッフドルフ(奇妙なものが出会う架空の村)について、あるいはパウル・ツェラーンについて書こうが、人間と
文化の「間」をじっくり観察するよう、いつも努力しています。文学的エッセーでは、魂がどれほど早く飛ぶことができるのか、人形の言葉を理解するのはどんなに難しいか、ショーウィンドウの5匹のテディベアが
どんなに好奇心旺盛か、そして、なぜヨーロッパというものは本来存在しないのか、といったことがらについての考察を述べています。(註;著者はヨーロッパとは本来いろいろな思想の主観的総和であると考えています。)
ドイツ人女性にも日本人女性にも、いずれにしても興味を引く、抜群の読み物です。
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